こちらでは、「保証協会制度」に関する基礎知識として、以下の5つについて説明していきます。
- 宅建業保証協会制度とは?
- 弁済業務保証金分担金の納付
- 弁済業務保証金の供託
- 弁済業務保証金の還付
- 弁済業務保証金の取戻し
なお、「保証協会制度」を理解するには、「営業保証金制度」に関する基礎知識が必要となります。「営業保証金制度」については以下の記事で解説しています。
それでは、「宅建業保証協会制度とは?」から説明していきます。
Contents
宅建業保証協会制度とは?
宅建業法には「宅建業保証協会制度」に関するルールが定められています。
「宅建業保証協会制度」とは宅地建物取引業保証協会に加入することで、営業保証金の供託をせずに宅建業を始められるという制度です。
「宅地建物取引業保証協会」って何だろう?…と気になる方もいるかもしれませんが、とりあえず、①「宅建業者だけが加入できる組織である」②「これに加入した宅建業者は営業保証金の供託をしなくて済む」という2点を押さえておけばOKです。
なお、「宅地建物取引業保証協会」は単に「保証協会」とよばれることが多いので、以下、「保証協会」と呼ぶことにします。
保証協会には「全国宅地建物取引業保証協会」と「不動産保証協会」の2つがあります。保証協会に加入したい宅建業者は、自分の好きな方を選んで加入することができますが、両方の保証協会に加入することはできません。
宅建業法が「保証協会制度」を定めている理由は、少ない資金で宅建業を始められるようにする点にあります。
「営業保証金制度」の記事で説明した通り、宅建業法には「宅建業を始めるには、営業保証金を供託しなければならない」というルールが定められています。しかし、営業保証金は最低でも1,000万円と高額であるため、新たに宅建業を始めようとする宅建業者にとっては大きな負担となります。
そこで、より少ない資金で宅建業を始められる仕組みとして宅建業法が用意しているのが「保証協会制度」です。この制度を利用すれば、宅建業を始めるにあたって営業保証金を供託する必要はなくなるので、少ない金額で宅建業を開始できるというメリットがあります。
また、この制度には、次のようなメリットもあります。
それは「営業保証金制度と同じように、宅建業者からお金を支払ってもらえないお客さんが救済される」という点です。
簡単に言えば、営業保証金制度と同じように、宅建業者からお金を支払ってもらえないお客さんは供託所に請求することで、宅建業者が支払ってくれない分のお金を引っ張ってくることができるということです。
営業保証金制度ではこれを「営業保証金の還付」と言いましたが、保証協会制度ではこれを「弁済業務保証金の還付」といいます。
以上が、「保証協会制度」の全体像についての簡単な説明です。
宅建業を始めるには、①「営業保証金を供託する」②「保証協会に加入する」という2パターンのやり方があり、宅建業者はどちらを選ばなければならないルールになっているということをしっかりと押さえてください。
弁済業務保証金分担金の納付
続いては、「弁済業務保証金分担金の納付」について説明します。
弁済業務保証金分担金とは?
「弁済業務保証金分担金」とは宅建業者が保証協会に加入する際に保証協会に納付しなければならないお金のことです。
先ほど説明した通り、「保証協会制度」を利用して宅建業を始める場合、宅建業者は保証協会に加入する必要があります。その際、保証協会に対してお金を支払わなければなりません。そのお金のことを「弁済業務保証金分担金」と言います。
正確に言うと、宅建業者が保証協会に加入するには、「弁済業務保証金分担金」の他にも入会金などの費用を保証協会に納める必要があります。しかし、それらについてはあまり気にする必要はありません。とりあえず、「弁済業務保証金分担金=保証協会に加入するのに必要なお金」という認識でOKです。
なお、宅建業者が保証協会に加入することを「保証協会の社員になる」といいます。ここでいう「社員」は「従業員」の意味ではなく、「メンバー」という意味です。これは「保証協会制度」に関する基本用語の一つになりますので、押さえておいてください。
弁済業務保証金分担金の額
次に、宅建業者が保証協会に加入しようとする場合に納付しなければならない弁済業務保証金分担金の額について説明します。この点に関するルールは、以下の通りとなっています。
宅建業者は事務所の数に応じて、以下の合計額を弁済業務保証金分担金として保証協会に納付しなければならない。
主たる事務所(本店) → 60万円
その他の事務所(支店) → 1カ所につき、30万円
例えば、事務所の数が一つだけ、すなわち、事務所が本店のみである宅建業者Aの場合、弁済業務保証金分担金の額は60万円になります。一方、本店のほか、3つの支店がある宅建業者Bの場合、弁済業務保証金分担金の額は60万円+(30万円×3)=150万円となります。
先ほども言いましたが、営業保証金は最低でも1000万円を用意する必要があります。しかし、弁済業務保証金分担金なら最低60万円で済むわけです。このように、「保証協会制度」は「営業保証金制度」に比べて、宅建業開業資金の負担が圧倒的に少ないものになっています。
弁済業務保証金分担金の納付時期・納付方法
弁済業務保証金分担金の額と並んで押さえておいて欲しいのが、弁済業務保証金分担金はいつまでに納付しなければならないのか?という「弁済業務保証金分担金の納付時期」に関する基礎知識です。
宅建業法上、弁済業務保証金分担金の納付は「保証協会に加入しようとする日まで」にしなければならないルールとなっています(64条の9第1項1号)。要するに、保証協会に加入する前に支払わなければならないという「前払い」ルールとなっています。
「宅建業者は保証協会に加入後、速やかに弁済業務保証金分担金を納付しなければならない」などの選択肢は「×」になりますので、ひっかからないように注意しましょう。
また、弁済業務保証金分担金の納付は現金でする必要があります。営業保証金の供託のように、国債証券などの有価証券で納付することはできませんので、この点も注意してください。
弁済業務保証金の供託
続いて、「弁済業務保証金の供託」について説明します。
弁済業務保証金の供託とは?
宅建業者から弁済業務保証金分担金の納付を受けた後、保証協会は「弁済業務保証金の供託」をしなければなりません。
「弁済業務保証金」とは保証協会に加入している宅建業者から支払うべきお金を支払ってもらえないお客さんを救済するためのお金です。
宅建業者から弁済業務保証金分担金の納付を受けた保証協会は、その日から一週間以内に、納付を受けた額と同じ金額を「弁済業務保証金」として、指定の供託所(東京法務局)に供託しなければならないルールになっています。
例えば、宅建業者Aが保証協会に対して60万円の弁済業務保証金分担金を納付した場合、保証協会は60万円を弁済業務保証金として、東京法務局に供託する必要があります。
なお、保証協会には数多くの宅建業者が加入していますので、保証協会による弁済業務保証金の供託額の合計はかなり大きな金額になっています。
弁済業務保証金の供託方法等
営業保証金の供託と同じく、弁済業務保証金の供託は現金だけでなく、一定の有価証券ですることもできます。供託できる有価証券の種類や評価額は「営業保証金の供託」と同じです。
また、弁済業務保証金の供託をした保証協会は、社員である宅建業者の免許権者に対して、弁済業務保証金の供託した旨の届出をしなければならないとされています。
例えば、甲県知事から免許を受けた宅建業者Aが保証協会に加入し、それに伴い保証協会が弁済業務保証金の供託をした場合、保証協会は甲県知事に「供託をしました」という届出をする必要があるということです。
弁済業務保証金の還付
続いては、「弁済業務保証金の還付」について説明します。
「弁済業務保証金の還付」とは保証協会に加入している宅建業者のお客さんが宅建業者からお金を支払ってもらえない場合に、保証協会が供託している弁済業務保証金からお金を引っ張ってくることを言います。
例えば、保証協会に加入している宅建業者Aのお客さんBがAから700万円を支払ってもらえない場合、弁済業務保証金が供託されている東京法務局に請求することで、Bは弁済業務保証金から700万円の支払いを受けることができます。
これが「弁済業務保証金の還付」です。
還付を受けられる人
宅建業法は「弁済業務保証金の還付を受けられる者」について、以下のように定めています。
保証協会の社員と宅建業に関し取引をした者で、その取引により生じた債権を有する者(宅建業者を除く)
簡単に言うと、弁済業務保証金の還付を受けられるのは「宅建業者のお客さん」です。「営業保証金の還付」と同じで、宅建業者と取引をした者であっても、①広告代金を支払ってもらえない広告業者や②給料を支払ってもらえない宅建業者の従業員等は弁済業務保証金の還付を受けることはできません。
理由は「保証協会制度」も宅建業者からきちんとお金を支払ってもらえない一般のお客さんを守るための制度だからです。
なお、宅建業者が保証協会の社員となる前に取引をした者も還付を受けられる点に注意してください。例えば、宅建業者Aが保証協会に加入する前にAと宅建業取引をしたお客さんBはAが払うべきお金を払わない場合には、弁済業務保証金の還付を受けられるということです。
還付額
「弁済業務保証金の還付」に関する基礎知識としてもう一つ、「還付を受けられる額」についても説明しておきましょう。この点について、宅建業法は以下のように定めています。
還付を受けられる額 | 宅建業者が保証協会の社員でないとした場合に供託しなければならない営業保証金の額の範囲内 |
少しわかりづらい表現になっていますが、要するに、「弁済業務保証金の還付を受けられる額は営業保証金の還付を受けられる額と同じである」ということです。
つまり、宅建業者の事務所が本店のみなら、還付を受けられる額は1000万円までとなります。そして、支店が一つ増えるごとに、還付を受けられる額は500万円ずつ増加していきます。
例えば、保証協会に加入している宅建業者Aの事務所が本店のみであれば、お客さんは上限1000万円の範囲で還付を受けられます。一方、保証協会に加入している宅建業者Bの事務所が本店と2つの支店である場合は、お客さんは上限2000万円の範囲で還付を受けられます。
還付を受けるための手続き
弁済業務保証金の還付を受けるには、「保証協会の認証」を受けたうえで、指定の供託所(東京法務局)に還付請求をする必要があります。
「保証協会の認証」とは弁済業務保証金の還付を受けることについて、保証協会の了解を得ることです。
そして、「保証協会の認証」を受けるためには、還付を受けようとする者が保証協会に対して「認証の申出」をする必要があります。
以上をまとめると、「弁済業務保証金の還付を受けるための手続き」は次のようになります。
- 保証協会に対する認証の申出をする
- 保証協会の認証を受ける
- 供託所に対して還付請求をする
- 供託所から還付を受ける
なお、弁済業務保証金の還付を受けるのに保証協会の認証が必要な理由は、還付を受けられない者が誤って還付を受けてしまうといった誤りを防ぐ点にあります。言い換えれば、その者が本当に還付を受ける権利を有する者であるかどうかを保証協会にチェックさせる仕組みが「保証協会の認証」になります。
補充供託
弁済業務保証金の還付が行われた場合、保証協会は補充供託をしなければなりません。
「補充供託」とは、還付された額と同じ額の弁済業務保証金を供託所に供託をすることを言います。
また、保証協会が補充供託をした後、宅建業者はそれと同額のお金を保証協会に納付する必要があります。これを「還付充当金の納付」と言います。
例えば、保証協会に加入している宅建業者Aのお客さんBが800万円の弁済業務保証金の還付を受けた場合を考えてみます。この場合、保証協会は800万円の補充供託を行う必要があります。そして、保証協会が補充供託をした後、宅建業者Aは800万円を還付充当金として保証協会に納付する必要があります。
なお、宅建業者が還付充当金を納付するよう通知を受けたにもかかわらず、その通知の日から2週間以内に還付充当金の納付をしない場合、宅建業者は保証協会の社員としての地位を失ってしまいます。これは、宅建業者にきちんと還付充当金の納付をさせるためのルールです。
弁済業務保証金の取戻し
最後に、「弁済業務保証金の取戻し」について説明します。
「弁済業務保証金の取戻し」とは保証協会が供託所に供託している弁済業務保証金を引き上げることを言います。
取戻事由
保証協会が弁済業務保証金を取り戻すことができるのは次の場合です。
- 宅建業者が保証協会の社員でなくなった場合
- 社員である宅建業者が事務所の一部を閉鎖した場合
わかりやすく言うと、①は「宅建業者が保証協会を脱退した場合」であり、②は「宅建業者が支店を閉鎖した場合」です。
例えば、加入に際して60万円の弁済業務保証金分担金を納付した宅建業者Aが保証協会を脱退した場合、保証協会は60万円の弁済業務保証金を取り戻すことができます(①の具体例)。また、加入に際して90万円の弁済業務保証金分担金を納付した宅建業者Bが、支店を閉鎖した場合、保証協会は30万円の弁済業務保証金を取り戻すことができます(②の具体例)。
なお、①の理由で弁済業務保証金を取り戻すには「公告」が必要になりますが、②を理由とする取戻しの場合は「公告」は不要です。
ここでいう「公告」とは保証協会が弁済業務保証金の還付を受ける権利を有する者に対して、一定期間内に申し出るように広く呼び掛けることを言います。
「公告」が必要な理由は「お客さんに還付をうけるチャンスを与えてあげる」という点にあります。「営業保証金の取戻し」に公告が必要な理由と同じです。
取戻し後の手続き
弁済業務保証金を取り戻した保証協会は、取り戻した弁済業務保証金と同じ額の弁済業務保証金分担金を宅建業者に返還しなければなりません(64条の11第2項)。
例えば、60万円の弁済業務保証金分担金を納付して保証協会に加入した宅建業者Aが保証協会を脱退し、保証協会が60万円の弁済業務保証金の取戻しを行った場合、保証協会は宅建業者Aに対して60万円を返さなければならないということです。
まとめ
「保証協会制度」に関する基礎知識の説明は以上です。
今日はここまでとします。お疲れさまでした。